あかねいろ(47)意識不明ー4ー

 この試合の結果は、僕たちに厳しい現実を突きつけていた。それは、力をつけてきているように思っていたFW周りの戦い方が、そこそこのレベルの相手ならば優位性はあるけれど、県の上位レベルになると決してストロングポイントにはなっていない、ということだった。ここを全面に出すことで、上位勢と戦おうとしていた僕たちにとっては、軌道修正の必要性を迫るものだった。ただ、最後に一本モールで押し込めたように、全部のフェーズで通用しなかったということではなくて、特に、モールで攻めるということについてはある程度の手応えがあった。ただ、モールで押される、サイドを執拗に攻められる、こういうことに対してのディフェンスの脆さは明白だった。

 他方で、バックスが何か立ち位置の変わる出来事があったかといえば、高田の事故以外に特に目立った出来事はなかった。今の戦い方を続けていくには、小山さんのキックの精度が一番の課題だということが改めて認識された程度だった。



 完敗ではあったけれど、谷杉は割とあっけらかんとしていて、「今の力はこんなもんだ」ということだけだった。

 チームとしても、振り返りが淡白だったのは、やはり高田の容体が気になっていたからで、みんな、何よりも、高田の様子がどうであるのかを知りたかった。でも、なんとなく、敗戦の重苦しさとか、なんやかやで言い出しにくい雰囲気だった。

 谷杉の携帯が鳴ったのは、3試合目も終わりに差し掛かり、僕らの片付けと着替えが終わり、みんなで帰りのバスを待っている時だった。その携帯の音が、妙に気味悪く聞こえて、心臓がどきりとしたのをよく覚えている。

 谷杉は少し離れたところに行き、短く何かに肯いている。彼から何かを話していることはほとんどなかった。わかりました、と、はい、ばかりだった。

 ほんの数分のことではあったと思うのだけど、僕にはその時間がとても長く感じた。でも、本当は、その時間は永遠であって欲しかった。永遠にその電話の結果を知りたくはなかった。



 高田は意識不明のままだった。息はしているが昏睡しており、呼びかけ、問いかけには反応がないそうで、初めは近くの病院に運ばれたけれども、その後、大きな総合病院に移され、これから両親がやってくるということだった。谷杉から話されたことはこれだけだった。それ以外のことは、何を聞かれても話さない、という強い意思を持った顔をしていた。あるいは、本当に何もなかったのかもしれない。

inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

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