あかねいろ(45)意識不明ー2ー

 試合に出る可能性のない会場に来るのはとても味気がない。そういう気持ちではいけないことはよくわかっているのだけど、チームはレギュラー、控え含めて一体であるべきなのはよくわかっているけれど、どうしたところで緊張感が伴わない。その分、会場の他のことはよく見える。

 春休みに入っているということもあり、また、8チームのうち4チームは同じ県北の地域の高校ということもあり、ギャラリーはかなり多い。とりわけ女子高生の多さは僕たちの試合ではあり得ないことで、それとなく目がいってしまう。応援団みたいなのも朝丘や鷹川工業にはきていて、何やら学ラン姿の男どもが叫んでいる。朝丘にはチアリーダーも来ていた。そう言えば、僕らの学校にも応援部があるけれど、野球部専属で、ラグビー部を応援ということはまるで話題にも上がらない。

 会場には5段ほどの特設の観客席もあり、横にも30人くらいは座れるようになっていて、概ねどこそこの高校の関係者や、何やら偉そうな人たちが座っていた。また、メディアと思しきカメラマンも多数来ていた。やはり、高校日本代表のエース格でもある福田が出るというところが大きい。朝丘の試合には、都合100人を超えるギャラリーがいて、関係者も含めるとかなりの数になっていた。「賑やかしさ」というのをラグビーの会場で感じたのはこれが初めてかも知れなかった。




 朝丘の試合が終わり、僕らの試合が始まる。妙にあっさりとはじまる。

 僕たちの戦術はシンプルで、とにかく、背後に蹴り、そこにプレッシャーをかける。できれば、スクラム、ラインアウト、モールを増やして、密集周りでの戦いに持ち込みたいというところで、オープンな展開は避けたいところだった。

 キックオフは鷹川工業ボールで、オーソドックスに蹴り込んできたボールが22m付近に来る。僕らの8番がキャッチをして前に出る。しっかりと当たり、ポイントを作り、そこからサイドを2回つく。大きく前には出れないけれど、ポイントを少し真ん中方面に寄せてから、小山さんに出してタッチにける。10mから少しハーフウエーによったところの相手ボールのラインアウトになる。

 今日の大きな分岐点は、この、相手ボールのラインアウトからの攻撃、モールもそうだし、展開もそうだし、これをどう止めるのか、止めることができるのか、ここがポイントだった。当然僕らは、ラインアウトではプレッシャーをかけて、球出しを遅らせたいし、モールで来るならば是非とも押し返したかった。

 ところが、クリーンキャッチされたボールから、鷹川工業はしっかりとモールを組み、そこから躊躇なく押してくる。僕らがFWにこだわったチームであることは認識していると思っていたので、ここにはあまりこだわってこないかな、と思っていたところ、彼らは自信満々にモールを押してくる。

 FWの体格では少し僕らが優っている感じだったけれど、低く組まれた縦長のモールは、僕らの腰の高いディフェンスを一気に突き破り、無人の荒野を電車が走るかのように猛進する。モールの手前に人がいなくなると、2番のずんぐりむっくりがボールを持ち出し、タッチライン際を走り出す。うちの11番が対峙するが、ハンドをオフをされながら、フォローしてきた9番に小さく離されて万事休す。あっという間に中央に先制トライを許してしまった。

 


 このトライは、単なる1つのトライではなかった。僕らが全面に押し出し、自信を持っていたストロングポイントを、彼らはいとも簡単に打ち破ってしまったのだ。この1点で勝負しようと思って準備をしてきた僕らをあざわらうかのように。その衝撃、ダメージは、単なる7点ではなかった。僕らの持っていた自信はガラス張りで、一瞬で粉々に砕かれてしまった。

 次のキックオフからも似たような展開が続いた。

 小山さんがタッチに蹴り出した次のラインアウトをクリーンキャッチされ、今度もモールを組まれる。モールは崩れたけれど、コラプシングをとられてしまい、ペナルティキックでゴール前10mくらいに持っていかれ、そこからのラインアウトをキャッチされ、今度はサイドを執拗に突かれて、最後は10番ががら空きのポイントとバックスの間のギャップに飛び込んだ。

inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

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