あかねいろ(40)フラストレーション ー3ー

  Aチームの2試合目は僕らのキックオフで始まった。小山さんのドロップキックは珍しく高い放物線を描き、相手のナンバー8に吸い込まれていく。僕らの6番がそこにいいスピードで突き刺さり、彼らの出鼻を挫く。22m付近にできた密集から、早速石橋にボールが出される。

   エリアは自陣だけど、どうせ彼は僕らのことを見下しているだろうから、絶対走ってくると思った。抜きにくると。

   彼は、キックするかもよ、という雰囲気を醸しながら少し前に出て、急に僕から見て左サイドにステップを切る。セカンドからトップへ一気に切り替えて僕とセンターの間にあるギャップを突きにかかる。しかし、僕ははなっから彼が蹴ると思っていないので、プレッシャーのかかっているインサイドではなくて、アウトサイドで突っかけてくるだろうと思っていた。割と腰の高い石橋のステップに対して、僕は腿の少し下のあたりに突き刺さる。

  僕には彼の「しまった」という心の声が聞こえる。

  彼は、このくらいの強いタックルにあうことをを全く予想していなかったのは間違いなく、不意をつかれた形になり、左肩から斜め後ろに大きく倒れ込む。その上に僕の頭が乗り掛かり、すぐ僕らのフランカーがボールに絡みにくる。出足の鈍い緑川のフォワードを物ともせずにボールをジャッカルし、一気にフッカーの一太がボールを受けて縦をつく。緑川の15番がしっかりと一太をタックルするも、綺麗に倒すには至らず、フォローしてきたロックに小さく手渡しをする。もうその前には誰もいない15mが青々と広がっていた。



   衝撃のスタートだった。

   彼らにとっては。1番の強みだった石橋のところが、ファーストコンタクトで倒され、一気にトライまで持っていかれるなどいう展開は思いもしていなかっただろう。僕らのベンチからは大きな歓声上がる。

   僕と石橋が密集から起き上がった頃にはすでにトライが決まっていた。僕のもとにメンバーが集まる。 「ナイスタックル!」 ベンチからも声が飛ぶ。このトライが明らかに、僕が石橋をぶちかましたことがきっかけであるのは間違いなかった。

  でもこの時僕は、ちょっと違った感覚も持っていた。

]  マッチアップした相手を一発で仕留めた。その嬉しさは確かにある。しかし、それと同時に、僕の左肩と左の頭には、彼の太腿、彼の胸の筋肉の感触がある。その硬さ、そのしなやかさ。僕は、彼の体が明らかに僕よりも鍛えられているものであることを感じる。僕だって、結構毎日朝練でウエイトをして鍛えている。けれども、彼の筋肉と体のバランスは、僕とは全然違う。何が違うとまでは僕にはわからなかったけど、確実に、絶対に違う。その違いを僕は完全に感じていた。  僕たちの盛り上がりの向こう側で、石橋は完全に頭に来ていた。



   僕から思いもしない一撃を受けたこと、そこからトライをあっさり取られたこと、そして、おそらく最近の自分やチームに対しても何かあったのだろう、立ち上がるときに、僕をこづいてきた。早くどけ、とばかりに。立ち上がろうとしていた僕を、右手で軽く飛ばした。それ自体は、小さなもので、他の人には目にもつかない程度だったけど、やられた僕は、それが明らかに僕への攻撃であることはわかった。

   それがあまりにも意外なことだったので、僕はその時はびっくりしてしまいよろけるだけだった。すぐにチームのメンバーも駆けつけたこともあった。でも僕も、石橋のそのアクションに、カチンときた。十分に、頭に血が上った。

   石橋は、ポールの下に集まったチームの輪の中には入らず、ドリンクのボトルを取り、勢いよく飲んでいた。その空気感は、彼がこのチームのレベルの中で少し浮いた存在であることを感じさせた。

inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

自分の中には、自分の言葉では表すことのできない自分がいる。でも僕は、その自分を抉り出し、その自分を白日の元に晒さなければならない。あるいはそれは僕自身を破滅に追い込むのかもしれない。しかし、あるいはそれは、世界を救うのかもしれない。 サイトのフォローをいただけると、とても嬉しいです。コメントをいただけると、真剣にお返事します。

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