あかねいろ(34)自分はそんなに大したプレイヤーではない

 

 自分はそんなに大したプレイヤーではない。


  この事実は国語辞典に載っている当たり前のことのように、明確に僕の心のなかに刻まれた。自分自身に対して描いていた砂上の楼閣は、雨に濡れるまでもなく、一陣のさっとしたそよ風に吹き飛ばされてしまった。


  僕にとってこの感覚は初めてのことではなかった。



  僕は小3の頃から野球に打ち込んでいて、将来は絶対にプロ野球選手になると思っていた。小6の作文では、どんなプレーヤーになって、引退したらたこ焼き屋を開業して、というところまで克明に描かれている。しかし、中2で県代表のセレクションに呼ばれた時、この日と同じような絶望感に襲われた。

  キャッチャーだったので、僕はのちに甲子園に行き準々決勝までいったピッチャーの相手をしたのだけれど、彼のカーブもスライダーも、僕には全然キャッチができなくて、すぐに替えられてしまった。バッティング練習では外野まで1球も飛ばすことができなかった。130キロ超えるピッチングマシンのボールにまるで対応できなかった。みんなは学校から唯一のセレクションメンバーで、キャプテンで、一目置いてくれていたけれど、僕はわかっていた。僕は一流プレーヤーにはなれない。甲子園で活躍できる器ではない。

  その思いを抱えたまま野球を続け、そして抱え続けることができなくなり、野球を投げ出した。



  午前中のグランドを渡る風はだんだんと緩んできて、冬の弱い日差しが僕たちにも注ぐ。10度にもならないグラウンドで感じるその日差しは、少しずつだけど春が近づいていることを感じさせる。


  ぼんやりとミーティングの話を聞き流しながら向こうで行われている試合を見ると、反対側のインゴールで、先ほど試合をした朝丘のメンバーがタックル練習をしている。福田もタックルダミーに向けて何回も何回もタックルを繰り返している。ダミーを持った相手がお尻から落ちるくらいの強烈なタックルを何度も何度もしている。そこには笑顔もなければ、試合の余韻など微塵もない。試合中には全然見られなかった福田のタックルを見て、あんなに爽やかに僕らを抜いてきながら、試合後の今は、体から湯気を出し、肩を泥に濡らしながらタックルをしている姿を見て、僕はもう一度落胆する。


  僕は今、こうして、自分の思い通りにいかなかったことに能書を垂れている。ぐちぐち考えている。だけど、完膚なきまでに叩きのめした当の本人は、もっともっと上を目指して、休む間も無く厳しい練習をしている。この事実が告げるのはただ一つだ。それは、今日の試合を通じて、彼はさらに強くなり、僕は勝手に落ち込んでいく。差は当然さらに拡大していく。

inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

自分の中には、自分の言葉では表すことのできない自分がいる。でも僕は、その自分を抉り出し、その自分を白日の元に晒さなければならない。あるいはそれは僕自身を破滅に追い込むのかもしれない。しかし、あるいはそれは、世界を救うのかもしれない。 サイトのフォローをいただけると、とても嬉しいです。コメントをいただけると、真剣にお返事します。

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