あかねいろ(22)文化祭スタート!


  文化祭当日は、朝の6時前には学校の生徒の半分くらいが来ている。9月の半ばの朝の日差しはまだまだ夏のそれで、今日が随分暑くなりそうだということを告げる。そして、その暑さの予感がなぜか心を踊らせる。早朝から各所に高校生男子たちの熱気が満ちている。

    8時45分から校門のクスノキの前で吹奏楽部の演奏が始まり、合唱部が校歌を歌う。すでに学校の前にはかなりの人だかりがあって、地元の新聞社のカメラマンもいくらか見える。文化祭の実行委員長が何か開会にあたっての言葉を叫んで校門が開く。早速に体育館には結構な人が行き、演劇部の出し物を見るために席取りをしたり、出店の集まっている中庭にも人だかりができる。プールの前のチケット売り場では、シンクロのチケットを求めて列ができる。来場者の半分くらいは女子高生で、そのほかは文化祭見学に来る中学生や、在校生の親や兄弟、そして地元の人がちらほらというところだった。学校の先生方は概ね出てこない。ほとんどが職員室にいるか、校舎でうろうろしている。校長先生や教頭先生などが校門付近で来賓と思しき人を応対している。



    始まってみてわかったことは、僕たちが色々と考えていた青写真は全く実行されない、ということだった。

     そもそも10時に来るはずだった立川の友達は全然こないし、女の子は目の前をたくさん通るけど、出店に出ているわけでもなし、何かしているわけでもない僕たちには特段興味は示さない。立川は張り切って「あの子が可愛いから声かけよう」としきりにいうけれど、僕はおどおどして動けないし、そういう立川だって口ではいうけど何もしない。

    そのかわり、僕らの周りはどんどん盛り上がっていくように見えた。

    出店の数も多いので、中庭からは女の子たちや子供たちの声が飛び交うし、体育館は人でいっぱいだし、校庭では小さい子供向けのイベントで親子がたくさん集まっているし、各クラスの出し物もそれなりに人がやってくる。うちのクラスでは迷路をやっていたけれど、悔しいことに結構女の子がきている。でも準備も手伝っていない僕らがそこで大きな顔をするのは憚られる。その上、どういうわけか、女の子と一緒に歩いているうちの高校の生徒がたくさんいる。あるいはそのように見える。特に野球部が意外とそういう人が多いように見えて、なんだかとっても負けた感がする。



    ということで、僕たちは行き場がない。教室にもいけないし、出店のある中庭は行きづらいし、かといってじゃあ他に何をすることがあるかといえば、何もない。校庭を覗いてみたり、校門付近をうろうろしてみたり、しょうがないので部室に行き同じような状況の1年生と、ああでもないこうでもないと話したりしている。11時ごろに僕の両親から「来たよ」というLINEが来たので校門に出迎えにいったけど、「別にあんたに会いに来たわけじゃないから」といってすぐにどこかにいってしまった。

    諦めているということではないけれど、どことなく、こんなことになるんじゃないかなあという予感はあって、部室でうだうだしているメンバーは、まあしょうがないか、別に寂しくないし、そんなもんだよ、という空気で慰め合っている。昨日までは、ああしようこうしようと盛んに言っていたのに、今日は妙にラグビーの話が多い。9月の末からは花園予選が始まる。その組み合わせも決まっている。今年は廣川工業が強いよな、とか、いや朝川高校も行くかもよ、などなど、珍しくラグビーの話を熱心にする。うちは順当にいけば第2シードの浅川高校と当たるので、そこのエースで、高校日本代表の幸田がどうのこうのとか、思い出したようにそんな話が続く。

inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

自分の中には、自分の言葉では表すことのできない自分がいる。でも僕は、その自分を抉り出し、その自分を白日の元に晒さなければならない。あるいはそれは僕自身を破滅に追い込むのかもしれない。しかし、あるいはそれは、世界を救うのかもしれない。 サイトのフォローをいただけると、とても嬉しいです。コメントをいただけると、真剣にお返事します。

0コメント

  • 1000 / 1000