あかねいろ(17)さあ、夏合宿!

 ラグビー部は夏休みの前半の20日間は練習がなく、僕は、その間のほとんどの日をアルバイトに費やした。

  地元からは少し離れた遊園地で、プールの監視員として、朝から晩まで14日間働いた。人生で初めてのアルバイトだったけれど、なかなかに気楽な職場で(そんなことではいけないんだろうけれど)なんだかとても高校生らしい14日間だった。真っ黒に日焼けしながら、水着姿の女子たちを見ているのは、年頃の男の子には刺激的だった。



  お盆の前に、酷暑の中、学校で2日間だけ練習があり、すぐに山中湖に一つ目の合宿に向かった。  山中湖には、多くの学校が各地から集まっており、5日の間ずっと、いろんな学校との練習試合を行った。さして涼しくもない山中湖ではあったけれど、ラグビーの試合が大いにできるというのは魅力的だった。中学校ではそういう、外に行く合宿はなかったので、初体験の合宿もなかなか趣深かった。もちろん試合と、トライを取られると、取られた分だけの罰練の繰り返しで、体としては大変だったけど、それでも試合が続くというのは、練習に比べれば、楽しい思いの方が大きかった。



  しかし、8月20日過ぎから、1週間かけて出かける、長野県の山奥で行う2つ目の合宿は、全く様相が違った。

  そもそも、スキーリゾートの地で、テニスとか自転車とかの合宿は少しいるようだったけれど、ラグビーの合宿をしに来ているのは僕たちだけだった。グラウンドもラグビー用のものではなくて、野球用のグラウンドでの練習で、先輩たちからも、ことあるたびに「山中はいいけど、栂池は最悪だ」とは聞かされていた。そして、確かに、文字通りの地獄だった。

  朝の7時前に学校に集まり、バスに乗り、お昼ごろに宿泊所に着く。フランス風のカタカナの洋館だけど、見た目も中身も昭和半ばという代物で、明らかにバブル期の残骸という姿だった。スキー客用なのだろうけれど、昼間見ても煤けたピンクの建物は、テンションの上がる代物ではなかった。宿泊するのは僕らだけで、7日間滞在したわけだけど、ついに僕らの高校以外の客は、一人もみなかった。  ホテルなのになぜか体育館があり、まずはそこに上がり、用意されたお弁当を食べる。冷たいお弁当で、ご飯だけがやたらと多く、あとは湿気った揚げ物が中心。


  それを一瞬で食べ終わると、そこで練習着に着替えて、練習の道具だけ持ってグラウンドへ移動する。

  しかし、グラウンドは宿泊所から歩いて15分以上かかるところにあり、行きは全ての道が下りだった。ということは、当然に帰りは全てが上りになる。これが実に辛かった。4時間練習をした後の、急な上り坂。1年生は練習関連の荷物を持っているので、それらの重たさもズシリとのしかかる。これを1日2往復することになる。

  グラウンドは川沿いで、単線の線路沿いにある、野球場の成れの果てのようななところで、一応フェンスがあるので、ここがおそらく野球場なのだろうということがわかるような、土のグラウンドだった。ただ、外野と思われるところが広大な面積を誇り、僕たちはゆうにラグビーコート2面はあるだろうと思われるその外野を使って練習をする。グラウンドの横を時折電車が走る。大糸線、という線らしい。中央本線の末端のようで、時折特急が走る。線路の向こう側に走る川は小さいけれど、実は数年前にはこの川の流域で大きな水害があったということで、水害時の注意事項という看板が立っている。

  練習合宿と言われているこの合宿では、目的は基礎力の向上と、秋の大会に向けたチーム力の向上を目指してのものだけれど、その内容は、とにかくしんどくて、しんどいことそれ自体を目的にしているとしか思えなかった。


inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

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