あかねいろ(13)定期戦のキックオフ!

  定期戦に、1年生の僕や深川が出ることも、やっかみとか嫌な雰囲気は全くなく、とにかく杉高に勝つんだ、そこに誰が出るのかはそんなに大きな問題ではない、チームとしてベストの力で杉高に向かうことは別に当たり前のこと、という感じだった。僕もそういう中で、別に1年生だからというようなプレッシャーはなかった。それどころか、自分がやってやる、というくらいに妙な自信を持っていた。



    この年は杉川高校での定期戦の開催で、各部が電車に乗り、駅から徒歩15分くらいのグラウンドへ向かう。ラグビー部の試合は15時半からで、その日の一番最後の試合として組まれていた。両校の校長先生、さらに応援部、そして試合を終えた他の部の人たちも集まり、観衆はちょっとした人だかりになっていた。試合の前には両校の吹奏楽部が校歌を演奏し、10m付近にならんだ僕たちも大声で校歌を歌う。梅雨の終わりの午後の空気はじわりと淀んでいて、校歌を歌うだけでも汗ばんでくる。風はほとんどない。空には低いところに薄い灰色の雲が佇んでいる。明け方までの雨で、土のグランドは少し水を含んでいる。でも足をとられるほどではない。

    杉川高校のキックオフでゲームはスタートする。ボールをキャッチした川下さんが相手に向かって突き当たっていく。30分ハーフの前半が始まる。

  僕のトイメンの12番は、背格好は僕と同じくらいに見えた。何年生かはわからない。けれど、声はさほど出ていなくて、オーラのようなものは感じない。僕のファーストコンタクトは彼のカットインに対しのてタックルで、ポイントを作るサインプレーだったのだろうが、妙に簡単に倒れてダウンボールをした。その感触に僕は自信を深める。「トイメンは潰せる」と。


  最初のトライは僕たちのバックスのサインプレーから、フルバックの林岡さんが抜け出し、独走で中央にトライをした。このメンバーの中では、県代表を張っている林岡さんの強さとスピードは抜けていて、スペースのある状態で、彼のところにボールが行けば確実にゲインをしそうな感じだった。

  バックスの走力ではどうやら僕たちの方が部がありそうだったけれど、FW戦では完全にやられていて、林岡さんのトライの後は、相手は完全にFW周りでしかボールを動かさなくなった。ポイントを作り、スクラムハーフからFWへ渡してすぐにポイント。時間がかかればスタンドオフから真後ろにハイパントを蹴る。密集では相手ボールを奪えることは僕らはほとんどなく、キッキングゲームでは林岡さんが巻き込まれるので、そのあとの手があまりなく、試合は膠着する。マイボールの時間が極端に減り、前半のその後のほとんどの時間は自陣に張り付かされていた。反則も自然と増えて、ペナルティーキックで2本得点をされる。さらに前半の終わりにはゴール前のラインアウトからモールを押し込まれて、最後は相手の2番がポイントの右の脇に潜り込んでトライをする。



    前半は7対13で終了する。

   出だしでスマッシュヒットがあった以外、ほとんどバックスに出番はなくて、気持ちだけが昂っていく展開に僕は苛立ちを隠せない。回してくれればなんとかできるのに、僕と大元さんでゲインを切っていけば必ずチャンスになっていくのに、などと思案する。しかし、そんな想いも虚しく前半の終わりの方の10分くらいは、ボールに触ることも、ポイントに入ることもなく終了していった。

inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

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