あかねいろ(49)お母さんへの手紙


「高田くんのお母様へ。

 高校のラグビー部の同級生の吉田と言います。高田くんのお見舞いに近くまで来たのですが、先生からも会いにいくのは避けるように、と言われていますので、気持ちだけ病院に置いていかせてもらいます。

 僕は、お母様に、どうしてもお伝えしないといけないことあがります。

 それは、どうして高田くんがこういう状態になってしまったか、その責任は僕にある、ということです。

 そもそも陸上部だった高田くんをラグビー部に誘ったのも僕たちです。何かの機会に話をしていて、それならラグビーやっちゃえ!みたいなノリでした。彼のようなスピードスターが加わってくれたことは、僕たちにはとても嬉しかったです。そして、彼の練習に対するストイックさにはとてもびっくりしました。陸上という個人競技で頑張ってきている人のメンタルの強さのようなものを見れて、僕たち全員がとても刺激を受けました。きっとこの夏くらいには、彼は大きな切り札になっていたのだろうと思います。

 そんな彼が、急にセンターというポジションで公式戦に出ることになったのは、本来はそのポジションを務めていた僕が、不祥事を起こしてしまったからです。

 僕は、練習試合で相手の人と掴み合いをしてしまい謹慎になりました。さらに、謹慎中にみんなが練習している最中に、ふてくされてゲームセンターなどに行ってしまい、当面の間試合に出ることは禁止になりました。そこで、あいたポジションに、高田くんが抜擢されたわけです。

 その時がもう公式戦の10日前くらいで、彼は初めてそこでセンターを務めたわけです。傍目には、正直言ってやる気いっぱいで、「ポジション奪った」くらいのノリで頑張っていましたが、コンタクトの激しいポジションなので、少し危なっかしいことも目につきました。

 相手の鷹川工業は関東大会にも出ているような強豪校で、一人一人のコンタクトのレベルがとても高かったです。そこにたまたま、試合も押され押されのところ、苦し紛れに彼のところにボールが回ってきて、棒立ちになってしまったところに、相手の強烈なタックルが入りました。

 それで今のようなことになっています。

 試合中のことは、完全に偶然で仕方のないことに見えます。

 しかし、僕が不用意なことをしていなければ、彼が無理にこの試合にセンターで出されることはありませんでした。ですから、このようなことになることもありません。

 つまり、今回の事故の責任は、間違いなく僕にあるということです。僕は、このことをご家族の皆様、そして何よりも高田くん本人に謝りたいです。膝をついて、ずっと謝り続けたいです。いや、謝らないといけない人間です。

 でも、僕はずるい人間です。ここまできたのですが、まずはお手紙を書かせてもらうことにしました。理由は先に書いた通りです。しかし、本当は「逃げた」のではないか、僕自身に対して僕も思います。でも、1000回くらい、「これは逃げたわけじゃない」と言い聞かせて、ようやくここまで書きました。人間として卑劣だと感じたとしたら、どうかお許しください。

 いつか、高田くん本人にこのことを伝えたいと思っています。

 本当にごめんなさい。」

 僕は手紙を病院の受付まで持って行き、そこで事情を伝えて渡してくれるように話をする。受付の方は、病室へ電話して呼びましょうか、と言ってくれたけれど、僕は逃げるようにそれを断り、病院を出てくる。

 

 病院の外は夕方の赤黒さをちょっとだけ濃くしている。しかし、基本的にはどんよりとした雲は厚みを帯び、僕の方へ僕の方へ迫ってくる。どんどんと近づいてきて、最終的にはその雲が僕の全身を覆う。黒い灰色に包まれた僕は、頭の中の記憶の風景が映し出される。

inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

自分の中には、自分の言葉では表すことのできない自分がいる。でも僕は、その自分を抉り出し、その自分を白日の元に晒さなければならない。あるいはそれは僕自身を破滅に追い込むのかもしれない。しかし、あるいはそれは、世界を救うのかもしれない。 サイトのフォローをいただけると、とても嬉しいです。コメントをいただけると、真剣にお返事します。

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