あかねいろ(7)初めてのランパス!

  一番初めに取り組んだのはランパスだった。楕円のボールを触ったのは、僕も含めて全員が、その時が初めてだったのだけれど、これはとても嬉しかった。仮入部だから、「走らされて終わりかな」と思っていたところなので、いきなりボールを持たせてもらい、先輩たちと同じように練習させてもらえるとは、夢にも思わなかった。



   特に、「こうしなさい」みたいな指示も指導もなく、4人一組になって、先輩たちの列に続いて走り出す。ただ一言、「前に投げんなよ」とだけ言われたので、前の先輩たちのボールの持ち方などを見ながら、走り、見よう見真似で、両腕を振ってボールを投げる。

  ボールは縦長に持ち、手首を90度近くにして下向きに持つ。軽く10歩ほど走ってから、右を見て少し後ろを走る一太に山なりに投げる。ボールは思ったよりも重く、一太の前でバウンドし、楕円のボールは一太の前ではね、あらぬ方向へ飛んでいく。一太がそれを追い、拾い、次の人へ同じように放つ。意外と上手でボールは僕が投げたみたいにクルクルと縦回転しないで、まっすぐと次の人へ渡る。一番右の子まで行くと、今度はその子が前に出て、今来たのとは反対向きにボールを投げていく。立川が一太に投げたボールはとんでもないところに飛んでいき、僕と一太がそのボールを追う。ボールを取った僕は少しダッシュをしてまた列の一番前に出る。少し身をかがめて、ボールを腰の下から右に放つ。今度はさっきと違いボールは楕円の縦長のまま一太に向かう。しかし一太はそれを走りながら取れずに指先で弾いてしまう。 「ノックオン!」 どこかからか大きな声がかかる。一太は慌ててボールを拾い、きまりが悪そうにしながら、もう一度前に走り出す。他の人は、それに合わせ、スピードを緩めて一太よりも後ろになるのを待つ。 


  片道50m程度のランパスを、往復で5回行う。先輩たちは、単に投げて走るだけでなく、ステップを切ってみたり、スクリューボールを投げたり、ちょっとキックを交えたり、クロスをしたりループをしたりしていた。僕らはとにかく、まずは投げる、取る、それと何と言っても、自分の立ち位置を隊列の中で調整する、ボールより後ろにたつ、というところに四苦八苦する。走りのペースが一様ではなくて、アップダウンを1回のランパスの中で何度もしなければならず、今まで経験したことのないような疲れが襲う。



  「しんど・・」 一等体の大きい深川が最初にへばった。彼の組は細い子ばかりで、ラインのスピード速く、雄大な体躯を持つ深川はついていくのに精一杯だった。 「おーいでかいの!頑張れ!」 先輩たちからの揶揄がとぶ。でも、その揶揄は馬鹿にしているのではなくて、その光景を喜んでいる、歓迎しているかのように聞こえる。 「おせーぞ1年!」 部長の大元さんの声が飛ぶ。その声も叱責をしたり、先輩の権威を振りかざして威張っているというものには聞こえない。みんなが笑いながら僕らの様子を楽しんでいる。 

  「ランパスはラグビーの基本だ。野球なら素振りと同じだ。単純に見えるかもしれないけど、ランパスの様子を見れば、その人がどんなレベルか、そのチームがどんなレベルかすぐにわかる」 5セットを終えて、荷物の前で息を切らしている1年生の前で大元さんがいう。

inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

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