美しい攻撃

沖縄の暑い夜は、両投手の熱投と、確かな守備で、さらに重苦しさを増していた。

沖縄出身の2人の投手が、それぞれの持ち味を発揮して、7回を0封する。いずれも100球に満たないが、梅雨の明けた沖縄の夜は、確実に彼らを消耗させて行った。

その8回。

ライオンズは、森脇が、ランナーを出しながらも、慎重に、慎重に0点に抑え切る。



その裏。

先頭は9番の蛭間。

積極的に振っていくも、早々に追い込まれる。

しかし、そこから、丁寧に丁寧に、低めのカットボールを見極め会心のフォアボールを選ぶ。

彼は、この1球の重みをわかっていたのだろう。ベンチに向かって、握り拳を込めて、絶叫する。


源田のバントが失敗に終わったあと、鈴木将平のドラッグバントは自らの判断だったのだろう。自らも生き残ろう、最悪でも、好調の外崎にスコアリングポジションにランナーをおこう。その考えがしっかりと見えるチョイスだった。

2死2塁。

同じシチュエーションで、前の打席は歩かされている。ここも、当然に同様のことが想定される打席だった。

初めの2つのボールは、しっかりと慎重に。絶対に痛打はされないところにおいてくる。この時点で、ツーボール。

やはり歩かされるか。

3球目は、見逃せばボールだったかもしれない。しかし、打ち気にはやる外崎は、ストライクゾーンに近いボールは振ろうと決めていたのだろう、外に逃げていくカットボールを強振、空振りをする。

この1球が勝負のアヤとなった。

2−1になったことで、バッテリーサイドに色気が出た。4球目は、インコースに強いストレートをストライクゾーンに持っていきファールを取る。

2−2。ここで、バッテリーは勝負に腹を決めた。

5球目のカットボールは低かった。3−2。

外野が一気に前に来る。勝負のサインだ。

インコースに投げ込まれたボールはシュート気味に食い込んでくる。しかし、好調の外崎は、このボールを、しっかり肘をたたんで、引っ張り込めばショートゴロ、という厳しいボールを、芸術的に捌き、1、2塁間に、詰まりながらも運んでいく。


ライトは万波バズーカーだ。前進守備を敷いている。

しかし、セカンドランナーの源田は、もう、抜けたらどんな状況であろうと帰ってくると決めていたように、一瞬の躊躇もなく、3塁で遠心力を使い加速をしてホームに飛び込んでくる。

クロスプレーではあったものの、余裕を持ってホームイン。

待望の先制点のポイントは、日ハムバッテリーに刺した魔だろう。3球目を外崎が見逃して3−0になっていたら、必ず歩かせただろう。しかし、あそこでストライクが取れたことで、勝負への色気が出た。

そこを、華麗に捉え切った。そして走り切った。



続く渡部のフォアボールも素晴らしい。今日の彼は、打てる状態ではないのかもしれない。しかし、得点され、動揺を隠せない玉井に対して、それは打ちたいだろうけれども、辛抱して、しっかり見極めた。

それが、中村の一打につながり、外崎の、源田同様のスーパーランに繋がった。

中村は、簡単に2ストライクを取られてから、明らかにスイングを小さくした。しっかり繋ごう、しっかり返そうという意識に切り替えてのバッティングが、二遊間への強いゴロとなった。



先頭になんとしてもでる、なんとかクリンナップの前にランナーをスコアリングへ。そして、粘り強い一打で、走魂発揮し勇気のあるランで1点をもぎとる。そこで淡白にならず、しっかりと四球を選び、後ろへ繋ぎ、もう1点へ繋げる。

なんと美しい2得点か。


熱く重たい沖縄の夜に訪れた、華麗な8回の裏。昨日の惜敗の鬱憤を綺麗に晴らしてくれる攻撃だった。





inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

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